これもまた兵どもの夢のあと。今はもう昔を語り継ぐひともなく風が吹くばかり。
何年経とうが人としての道は変わらぬ。他人に恥ずべき人生などは。
「碁敵は憎さも憎し懐かしし」をまた独り寂しく呟く自分がいる。失って知るもの多し。
山で見つけた海の化石が地球の歴史を語る。ここは昔海底だったのか。今なお続く地殻変動。
ひとりの青年がこの世界の歴史を塗り替える。将棋界にもそして大リーグという野球界にも。
確かに。白い指を飾るあの怪しき光の元素記号は木炭と同じ「C」。この炭素の輝きが愛を計る物差しに。
村の衆の拠り所となっている石地蔵。雨や風にさらされてもでんと居座り見守り続ける。
考えてみれば出会いも別れもそして人生の旅もこの石に支えられている線路の上だった。
どんなことでも心許してしまう懐深き母。そして躓きの原因である石にさえ温かいまなざし。
昔を知ることはこれからを知る、とばかりに消えかかった石碑の文字をなぞる。
名もなき草などあろうはずはない。朝のテレビ「らんまん」の槙野博士。当然石ころにも。
与えた親切は忘れても受けた親切は忘れるべからず。心豊かとはこんなところにも。
さざれ石にも大志や意地はある。いつ来るかもしれない出番にバックネット裏の素振りは欠かせぬ。
行き交う人々の足音をどれだけ聞いた石畳。歴史も時のできごとも知っている石畳。
生きるための棚田が今はもう観光スポット。一つひとつの石に支えられ。
道の分岐点の石は時に旅人の案内人。振り向けば道しるべに従った今の私がある。
開墾の歴史は併せて貧困との闘い。石に刻まれた墓誌のくぼみを撫でながら遠い先祖の汗を思う。
あれからもう一年が経つ。そろそろひとり立ちしなければ夫に申し開きが立たぬ、と在りし日の夫に。
揺れ動くから疑心も膨らむ。ここは丹田に重石を載せてじっと時を待つ。
誰が掛けたか赤い前掛け。ここにも平穏の日々を願う名もなき市井の人が。
この契り、誰にも言わず違えず墓場までと誓った二人。時を重ねても決して揺るがず。
どんな小さなものでも異物は異物。靴の中に入った小石の声は大きい。
この村には誇りの傑物がいた。文武両道に優れていた人が鎮守の森の奥に。
どこにこんな大きな力が。そういえば石を割る桜の存在も。生命力には果てしなき力が。
石蹴り後の孤独いや増す寂寥感。いっそ石ころなど蹴らねば良かったとの軽い後悔。
何か行動しなければ心つぶれる思い。投げた石に思いを込めて。
こんなはずではなかった。これもまた身体の経年劣化か。現実を直視して生きていこう。
分かってくれるものは故郷の敷石。まだ帰られる故郷があるだけでも良しとするか。
番号で呼ばれて地に倒れる名もなき兵士たち。戦争は代わりの兵士をまるで小石のように補充する。
昔なら鼻緒のすげ替え。石畳が演出した今様の出会いの何と粋なことか。